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を位置づけることが必要である。
(5)問題点5:勤務時間内、勤務時間外の防災力の変化が十分考慮されていない
勤務時間内とか勤務時間外とかいう言葉を聞くと、多くの防災担当者は「勤務時間外の発災に備えた宿直体制あるいは情報連絡体制」のことを想起されるのではないかと思われる。それはそれできわめて重要なことである。なぜなら、阪神・淡路大震災でもみられたように、勤務時間外の発災は地方公共団体が活動体制を整える上ではきわめて都合が悪いため、上記のような体制が必要となるからである。
それでは、勤務時間内の発災はあまり問題がないかというと必ずしもそうはいえない。勤務時間内の発災であれば、地方公共団体には職員はいるけれども、地域内の防災力が手薄になる心配も大きい。阪神・淡路大震災時の淡路島北淡町でみられたように、一般に消防団は町村部では極めて大きな地域の防災力である。しかし、昼間は勤めの関係で管内の外に出ている消防団員も多数いる。そのような地域では、じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんが守る「三ちゃん防災」になっていると担当者が嘆くところが多い。しかしながら、そのような地域にも、高校があり(ボランティア予備軍の高校生が通学してくる)、小さいけれど近年進出してきた企業もある(若い従業員が通勤してくる)といったケースも多い。
このことからもわかるように、勤務時間内と勤務時間外とでは防災力の状況は大きく異なっていることに気づかれると思う。大規模災害には地域全体が総力でもって対応する必要があることを考えると、この相違に留意した災害応急対策計画を用意する必要がある。具体的には、少なくとも初動期の活動計画については、勤務時間内と勤務時間外の二とおりのシナリオを準備するのが適当と思われる。
現在の災害応急対策計画では、勤務時間外発災時の連絡体制は明記されていることが多いが、活動計画までは踏み込めていない状況にある。
さらにもう一つ、職員の士気という点から勤務時間内発災の問題を考えてみよう。
阪神・淡路大震災は、勤務時間外の家族と一緒にいるときの地震であったため顕在化しなかったが、あの地震が勤務時間内であったならばどうであっただろうか。もちろん、今回のように参集問題がクローズアップされることはなかったであろうが、一方では職員に大幅な士気の低下をもたらしていた可能性がある。家に残してきた子供や老父母のこと、家屋のことなどを考えるといても立ってもいられない職員が続出したのではないかと想像される。これは何も筆者が勝手に想像をたくましくしているのではなく、勤務時間内に発生した過去の地震(1964年新潟地震、1968年十勝沖地震など)に際して、現実に職員に士気の低下が見られたといわれているのである。
そのため、勤務時間内の発災であれば、このような事態が起きることを前提に対処方策を計画に記載するべきである。例えば、1968年の十勝沖地震のときには状況をみながら職員を交替で自宅に帰した事例がある。家族や家屋の状況を確認できた職員は、その後は意気軒昂に職務に取り組んだというが、このような事例も参考にできるであろう。
なお、この種の問題の解決は災害応急対策計画だけでなく、災害予防計画においても考慮しておくべきことである。家屋の耐震補強、家具の転倒落下防止措置などにより、できるだけこの種の不安要因を事前にとり除いておくことが重要である。首長や防災対策を遂行する上でのキーパーソンの防災面の環境整備には特に配慮する必要がある。

 

 

 

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